活躍する住民
酒屋「響屋」𠮷田佳織さんが語る、芸西村の「ちょうどいい距離感」
酒蔵を改装した店内に、ずらりと並ぶ駄菓子。日本酒の一升瓶のとなりで、子どもたちが100円玉を握りしめてお菓子を選ぶ。高知県・芸西村にある酒屋「響屋(ひびきや)」は、ちょっと不思議で、あたたかい場所です。
造り酒屋から小売業へ。洗車場の運営を経て、今は高知東部の酒蔵の酒を扱う拠点として、また地域の子どもたちの「駄菓子屋さん」としても親しまれる響屋。
店主の吉田佳織さんは、芸西村商工会の会長も務めながら、保護猫活動のお手伝いや村のさまざまな場所に顔を出しています。
「芸西村が好き」と迷いなく語る吉田さんに、村での暮らしと、これからのことを聞きました。
酒蔵を改装した、ちょっと不思議な酒屋
まずは、響屋さんがどんなお店か教えてください。
もともとは「響灘(ひびきなだ)」というお酒を造っていた造り酒屋なんです。私が継いだ頃にお酒造りをやめて、そこからは小売業に。最初は日本酒がメインだったんですけど、だんだん駄菓子が増えてきて、もう、駄菓子のほうが目立つかもしれませんね。

酒蔵の雰囲気がそのまま残っていて、すごく素敵な空間ですよね。
蔵の二段になっていた部分を剥いで、吹きぬけにして、そのまま店に。「酒蔵のお店」なので、初めて入った方は天井の高さもあり「外から見るよりも広いですね」ってびっくりされます(笑)。


造り酒屋から、いまのお店になるまでには、いろいろあったんですね。
お酒造りをやめたあと、当時は仕込みに使っていた井戸水が豊富にあったので、それで洗車場をやっていたんですよ。
手洗いが5台と、水圧の洗車機と。ゴルフ場が近くて高級車の方も多かったので、水圧洗車は人気がありました。でも海が近いので塩害で機械が傷むし、儲けというより「機械代を払ってる」みたいな状態で(笑)。
そんなときにホームセンターさんから話があって、タイミングもあり、いまの響屋の隣にコーナンという形になりました。
「ここで生まれて、ここで暮らす」
𠮷田さんは、ずっと芸西村で暮らしてこられたんですか。
一度は大阪に出たし、結婚して高知市内にいたこともあるんです。でも、やっぱり田舎のほうが落ち着くなと思って、帰ってきました。親に子どもを見てもらいながら、という事情もあったんですけどね。
都会よりも、この村のほうがいい、と。
単身で帰ってきても、同級生や知り合いがいると、やっぱり心強いんですよね。芸西村って狭いから、人によっては嫌っていう人もいると思うんですけど、私はその狭さが居心地よくて。顔の分かる人がいる安心感でしょうか?自然もあって、2人の子育ては芸西村で良かったと今も思っています。

村のために、という意識は昔からあったんでしょうか。
そんな大それたものじゃないですよ(笑)。ただ、ここで生まれて、たぶんここで死んでいくし、なるだけ地域に貢献しながら、楽しく生きていけたらいいなって。その程度の気持ちです。
子どもたちへの、ささやかな「還元」
地域の子どもたちとの関わりも深いと伺いました。
開店当初はそこまで子どもも来なかったんですけど、駄菓子を置くようになってから、ずいぶん来てくれるようになりました。今は小学生が学習の一環で来て、自分たちで考えたアンケートを持ってきてくれたり、中学生の体験学習もやってます。去年は初めて、小学1年生に鉛筆を贈る活動もやったんですよ。
鉛筆を贈る、というのは。
「正しい持ち方になる三角の鉛筆」みたいなものを。これまで他のお店がやっていた年もあったみたいなんですけど、やめられたということで、だったらうちで、と思って。

そういう活動が、やりがいにつながっている。
うちの店に来てほしいから、というのとはちょっと違うんです。芸西村の子どもを応援したいな、村に還元できることがあるなら、っていう気持ちですね。つながりというか、そういうのが楽しいんですよ。子どもは村の宝だと思っています。
ただ、駄菓子も去年あたりからどんどん値上がりしていて、10円20円上がると、100円玉を握って来る子どもには、なかなか厳しくてね。そこは悩ましいところです。
移住者も、外国人も。村に吹く「新しい風」
最近は、村外から移住してくる方も増えているとか。
増えてますよね。村全体を盛り上げようとしてくれる人って、むしろ村外から来た人のほうが多いこともあって、SNSを利用してなど、新しい風を吹き込んでくれる。私みたいな50代は、20代30代の人と関わる機会ってなかなかないのですが、ひそかにうれしく思っています。
新しいことを始める人を、応援したい、と。
たまには新しい風を吹かせてもらわないと、村の良さって意外と分からないんですよ。それが普通になっちゃってるから。外から来た人が「ここがいい」って言ってくれると、ハッとさせられます。地域の良いところを再確認できますね。
外国から働きに来ている方も増えていると聞きました。
うちの近所にも農家系でインドネシアから来てまして、以前は中国やベトナムの方が多かったんですけど、いまはインドネシアの方が近所では多いですね。言葉の壁があるので、ゴミの出し方とか、村がボランティアの講習会を開いたり、お花見に行ったりして交流している様です。
全然知らない者同士だと、お互い怖いじゃないですか。だから国が違っても見える関係を村と一緒に作っていけたらいいなって。
「ちょうどいい距離感」を大切に
村の人間関係について、心がけていることはありますか。
若い頃は「困ってる人がいたら助けなきゃ」って感じだったんですけど、いまは少し、奥まで関わりすぎないようにしているところもあって。関わりすぎると重くなるけど、ドライすぎても、せっかくの田舎なのに寂しいですよね。その「ちょうどいい距離感」が、いちばん難しいけど、大事です。

難しいバランスですね。
人付き合いは深すぎず、合わない人とは無理に付き合わない(笑)。どこで住んでても、会社でもあると思うけど。合わないなと思ったら、スッと引く。お互いを尊重しながら、っていうのが、結局いちばん生活しやすいんですよね。
本当は人が好きなんですよ。仲良くしたいけど、みんなそれぞれ事情や考えがありますから。ストレスないような人付き合いを心がけてます。
商工会の会長も務めていらっしゃいます。
引き受けたのは、「あなたならできると思う」って言ってくれたから。そう言ってくれるってことは、できるんじゃないだろうか?なと思って。私、押されたらやるタイプなんです(笑)。
結果…あまり私には向いてなかったと思ってます。全体を見ての決断力が欠けてるかと。
でも何かやるときは「やってほしいことがあったら言ってください」「みんなで一緒にやりましょう」っていうスタンスでいたくて。一人で強く引っ張るんじゃなくて、周りの声を聞きながら、っていうのが性には合ってるみたいです。任期まで奮闘するつもりです。
これから挑戦したいこと
新しい商品にも挑戦されていますね。
少し前に、クラウドファンディングでお酒のパウチを商品化したんです。新しいものを作るって、やったことがないから段取りが多くて、本当に大変で(笑)。家族経営ですし、人に「これやって」って頼めないし、協力や意見を求めるのも難しくて。
それでもなんとか形になって、いまも店で詰めて販売しています。芸西村のふるさと納税の返礼品にもなっているんですよ。

そのパウチから、さらに新しい展開があるとか。
そうなんです。同じお酒を凍らせた「冷凍酒」を試していて。この前、村の飲み会に持っていったら好評だったんですよ。純米吟醸は冷凍しても美味しくて、純米酒だと凍らせると辛味が立ってしまうので、冷凍向きは吟醸かなと。楽しく試行錯誤してて、今は楽しいラベルを考え中です。
それは気になります。どこで買えるんでしょう。
まだこれからなんですけど、最初は大きなところで売ろうかと思ったんですけど、あえて、うちの店とうちの通販だけの限定にしようかなって。あちこちで買えると、ちょっと特別感がなくなる気がして。「ここでしか買えない」っていうものにしたいんです。
パウチに続いて、この冷凍酒もいずれふるさと納税の返礼品に加えられたらいいなと思っています。
「ここでしか」という言葉、印象的です。
10年後には高速道路がつながる予定なんですけど、便利になると、人ってかえって途中で降りなくなるんですよね。自分自身がそうだから分かるんです(笑)。
だからこそ、「わざわざ降りてでも寄りたい」「ここでしか食べられない・買えない・見えない」というものが、この村には必要だなって。
最後に、これから挑戦したい夢を聞かせてください。
未来に残る、人が集まる場所を作りたいんです。いま測量も進めていて、クラウドファンディングが通るか分からないけど、芸西村に「こんなところがあるよ」って言える場所を。
子どもたちにも、その先の世代にもつながっていくような、とにかく、未来につなげるために、っていう気持ちでやっています。村民の活動の場所・発信の場所として使ってもらいたいです。
村の外の人へ、伝えたいこと
芸西村の外にいる人に、メッセージをお願いします。
芸西村のキャッチコピー、「小さくても元気に輝くむら」っていうの、私すごく好きなんですよ。ガツガツ観光地化してほしいわけじゃなくて、ほどほどに(笑)。でも、村の良い所をもっと外に発信できたらいいなとは思っていて。
村の人には、より一歩前に踏み出してほしい。チャレンジしてほしいんです。自営業が多い村だから、新しいことを言っても、なかなかみんな今のことで手いっぱいで踏み出さない。でも、自分の興味のあることを、みんなと共有できたら素敵じゃないですか。強制はしたくないけど、もし応援してくれる人が近くにいれば、何か形になることもあると思うので。
私自身は、肩肘張らずに、一緒にこの村の暮らしを楽しんでくれる人が増えたら、それがいちばん嬉しいですね。

【取材後記】
お話を伺うほど、「自分のテリトリーだけど」と言いながら、𠮷田さんが村のあらゆる場面に関わっていることが見えてきました。駄菓子も、移住者支援も、保護猫活動も、新商品開発も——どれも「芸西村のために」という一本の軸でつながっています。小さな村の、確かなあたたかさ。その真ん中に、響屋の灯りがありました。
響屋(ひびきや)
店主:𠮷田佳織(よしだ かおり)
高知県安芸郡芸西村