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「推しですか?全部です。」植物への情熱が止まらない 高知県立牧野植物園 職員 上杉さん

大きな木の下に置かれた、テーブルとイス。
冷たいお茶をいただきながら、木陰でインタビューが始まりました。

お話を伺ったのは、高知県立牧野植物園に勤務する上杉翔さん。
植物園で植物の管理に携わりながら、ご自宅でもたくさんの植物を育てています。その数はどんどん増え、今では植物を育てるためのハウスまで。

お話を伺ったご自宅のお庭にも、植物がたくさん。緑に囲まれた心地よい空間で植物の話を聞いていると、ここが上杉さんのお家だということを忘れてしまいそうになります。

そして、インタビュー後半は、上杉さんに案内していただきながらハウスの中へ。
まるで”小さな植物のテーマパーク”を楽しませてもらっているようなインタビューになりました。

芸西村役場から、レストラン。そして牧野植物園へ

大学を出て芸西村に戻ってきて、最初は役場で臨時職員として3年ほど働きました。

そのまま継続のお話もいただいたんですが、「もっといろいろなことにチャレンジしてみたい」という気持があって、転職することにしたんです。

次に働いたのが、黒潮カントリークラブのレストランでした。ウェイターとして接客の仕事をしていました。
そこでも植物のお世話をすることがあったんです。社長が置いていたサボテンだったり、お祝いでいただいた胡蝶蘭だったり。仕事の中でも、そういう植物を管理している時間が一番好きでしたね。

多肉植物との出会いで「爆発した」

レストランで働きながらも、「もっと植物を中心に関われる仕事がしたい」という気持ちはあったんです。
そんな時、姉から「変わった植物があるお店があるから、一緒に行ってみよう」と誘われました。南国市に、多肉植物を専門に扱っている方がいらっしゃって。

そこで栽培されている植物を見た時に、衝撃を受けたんです。多肉植物って、同じ種類でも姿形が全然違うものがあるんですよね。その多様性がすごく面白くて。自分の中で、何か爆発したような感じでした。そこから一気にのめり込んでいきました。

締め切り3日前。牧野植物園へ

その頃から、牧野植物園の求人も時々見ていました。たまたま見た時に募集が出ていたんです。最初は栽培の仕事ではなくて、企画広報課の園内ガイドの募集でした。

でも、「植物にもっと近づけるし、植物の魅力をいろいろな人に伝えられる仕事ができるかもしれない」と思って。
募集の締め切りが3日前だったんですけど、急いで書類を用意して、速達で送りました。応募書類にも、自分で植物を育てていることや、もっと広く植物の魅力を伝えたいということを書きました。

最初はガイドとして3年間働いて、その後、現在の栽培技術課に異動しました。今は「こんこん山広場」や「ふむふむ広場」など、新しい園地を管理する班に所属しています。

牧野植物園:こんこん山広場

植物の管理だけでなく、花畑の植栽を考えたり、施設の管理をしたり。春のフラワーイベントに向けて、「来年はどんな植栽にしよう」「どんなコンセプトにしよう」という話し合いもしています。

自分たちで種をまいたり、植えたりして育てたものが実際に園地で育って、それを見たお客さんが喜んでくださった時は、やっぱりうれしいですね。直接声をかけてもらえることもあります。

特に僕は多肉植物が好きなので、「ふれあいの庭」にある多肉植物の植栽も管理しています。そこをお客さんが見て、驚いたり、喜んだりしているのを見かけると、「見てくれているんだな」って、うれしくなりますね。

牧野植物園:ふむふむ広場

プランターごとにテーマもあるんです。ふわふわした手触りの植物だったり、多肉植物の姿形を見比べるものだったり、香りを楽しめるものだったり。
上司に「ここに、こういう植物を入れたら面白いんじゃないですか」と提案すると、「じゃあ、やってみようか」と言ってくれる。そうやってチャレンジさせてもらえるのもありがたいですね。

植物を育てるのは「大変」より「楽しい」

植物園で仕事をして、家に帰っても植物の世話をしていますけど、それが苦じゃないんです。家族というか、子どもみたいな感覚になるんですよね。趣味で育てていることが仕事に生かせることもありますし、仕事で知ったことを自分の栽培に生かすこともある。いい感じにつながっています。

子どもの頃から、自然はすぐそばに

大学で出るまでは、ずっと芸西村にいました。
子どもの頃から、親に野山へ連れて行ってもらっていましたね。その頃は植物より虫が好きで、虫取り網を持って走り回ったり、魚釣りをしたり。

でも、もともと自然や生き物と関わること自体が好きだったんだと思います。父も母もそういうことが好きだったので、その環境も大きかったと思います。

芸西村の良さは、自然が身近で、落ち着いた環境があるところですね。里山のような環境で幼少期を過ごせたことは、今にもつながっている気がします。

気づけば、ハウスまで

植物が増えていって、今は自宅にサボテン専用のハウスがあります。
それとは別に、少し離れたところにもハウスを借りています。近所のおじさんが、「うちもそろそろ畳もうと思っちゅうけど、よかったら使わんかい」って声をかけてくれたんです。小さい頃からお世話になっていた方なんですよ。
そこで今は、サボテンなどを育てています。

休みの日ですか?植物の世話が多いですね。あとは各地の山へ植物を見に行ったり。県外へ行くこともあります。
写真を撮るのも好きなので、一眼カメラを持って植物を撮っています。マクロレンズや望遠レンズも持っていくので、結構荷物になりますけど(笑)。

芸西村を歩いていても、見ているのは植物

芸西村から北へ上がっていったところに岩倉ダムがあって、そこから芸西村を見下ろす景色が好きですね。
ビニールハウスなんかも見えて、夕焼けがきれいなんです。そういう景色を見ると、都会とは違う良さを感じます。

琴ヶ浜の松林もきれいですよね。松林へ行っても、海より植物を見てしまいますね(笑)。珍しいランとかがいないかなって、足元を探しています。

芸西村にも、珍しい植物があるんですよ。他の地域では少ない植物が、芸西村では比較的見つかることもあります。
だから、身近なところにもまだまだ面白い植物があると思います。

上杉さんハウスの“植物ツアー”

インタビューの後半は、上杉さんに案内していただきながら、ご自宅のハウスの中へ。
一歩入ると、様々なサボテンや多肉植物が心地よさそうに並んでいます。

ひとつ尋ねると、名前だけでなく、原産地や育ち方、どうしてこんな形になったのかまで、上杉さんの解説が始まります。ひとつひとつにストーリーがあって、その魅力がイキイキと輝きだすように感じました。

青みがかった茎の色が特徴【オルテゴカクタス・マクドガリー】

ここにあるものは全部種から育てたものなんです。種類によって成長する速度は違って、こっちはまだ1年半くらい。

ちょっと青みがかったような、独特な茎の色が特徴ですね。

ふわふわの“おじいさん”みたいなサボテン【翁丸(オキナマル)】

こちらはセファロセレウスというグループの柱サボテンで、「翁丸(オキナマル)」という園芸名がついています。―――すごい! ヒゲみたいなものがいっぱいありますね。

標高の高いところに分布しているサボテンなので、この毛には強い直射日光を和らげる役割があります。それから、水分を求める動物に食べられにくくする役割もあるんです。

ふわふわしているように見えるんですけど、中には鋭いトゲも隠れています。
―――触ってみると……思ったより硬い!

そうなんですよ。ちょっと化学繊維みたいな感じですね(笑)。

葉っぱがあるけど、これもサボテン【コノハサボテン】

これも実はサボテンなんですよ。コノハサボテンと呼ばれるグループです。
サボテンも、もともとは樹木に近い姿をしていたと考えられていて、進化していく中で葉っぱが退化して、今よく見るようなサボテンの姿になっていったんです。

これは、その原始的な特徴を残しているサボテンですね。

花が咲くのは、たった一晩【ディスコカクタス・スピノシア】

こちらはピロソケリウスの仲間です。
茎の上の方がモコっとなっているところがあって、そこが花を守っています。咲く直前になると、そこからニョキッとつぼみが出てきて、その晩に開花します。


そして、1日で終わります。

―――たった1日なんですか!なんだか切ない・・・

サボテンの花には香りがするものもあって、種類によって全然違います。中には、ハウスの中に充満するくらい、香水のような強い香りがするものもありますよ。

60年もの。上杉さんの大好物【ランポー玉】

これは、60年くらい経っている株です。アストロフィツムというサボテンのグループです。
「アストロ」には星や宇宙という意味があって、この表面の白い点を拡大して見ると、星のような形をしているんです。上から見ると五角形になっているものもあります。

―――上杉さん、この種類が好きなんですか?

このアストロフィツムの仲間が、一番大好物です(笑)。
中にはしっかり水分が蓄えられていて、切ってみると本当に野菜みたいな感じなんですよ

サボテンとサボテンをくっつける?【接ぎ木したサボテン】

これは、別のサボテンに接ぎ木をして育てているものです。

―――ということは、一つに見えて2種類なんですか?

そうですね。接ぎ木はサボテンを増やす技術としても使われています。

種から育てると花が咲くまで3年くらいかかるものでも、接ぎ木をすると、早いものなら半年から1年以内に花を咲かせることがあります。新しい品種をつくる時にも、この方法を使うと育種のスピードを速めることができるんです。

芸西村のブルースターと、実は仲間【フウセントウワタ】

これはフウセントウワタです。実が熟すと、風船のように膨らんだ部分が弾けて、中から綿毛のついた種が出てきて、風に乗って飛んでいきます。

実は、芸西村のブルースターも同じキョウチクトウ科の仲間なんですよ。ブルースターも種ができると鞘のようになって、それが弾けると綿毛のついた種が出てきます。
ブルースターは多年草なので、冬場に暖かくしてあげれば、株を枯らさず翌年も育てることができます。

名前までかわいい【乙女心】と【恋心】

―――これ、先がピンク色になっていてかわいいですね。

これは乙女心です。似たものに恋心という名前のものもあります。

―――乙女心と恋心! 名前までかわいい(笑)。ハウスの中は、名前を聞くだけでも楽しい植物でいっぱいです。

植物って、面白い。その魅力をもっと伝えたい

これからやっていきたいことは?

僕自身が植物に出会って、「植物って面白いんだ」ということを実感したので、その魅力をもっと人に伝えて、共有していきたいという気持ちがあります。

それをやりながら、自分自身も楽しんでできるのが一番ですね。
これからも、いろんな植物に出会って、自分も育てながら楽しんでいきたいです。

【取材後記】
たくさんの植物に囲まれた庭とハウス。上杉さんの楽しく丁寧な説明を聞いていると、ひとつひとつの植物がキラキラと輝きだすように感じました。

植物を育てることは、子どもや家族のような感覚、とおっしゃる上杉さん。どの植物にも愛情を注ぎ、小さな変化や成長を楽しむ姿がとても印象的でした。

インタビューは、いつの間にか植物の世界を巡る楽しい時間に。まるで植物のテーマパークを訪れたような、ワクワクがいっぱいの取材でした。