活躍する住民
畑の中で、「たい焼き食べたい」から始まった。たい焼き collation 佐藤さん
芸西村の白玉糖を使ったあんこに、キーマカレーやアリゴなどのおかず系、地元の食材を使ったちょっと変わったたい焼きも好評の「たい焼き collation(コラション)」。
キッチンカーで県内外のイベントへ出かけ、たくさんの人にたい焼きを届けています。
店主の佐藤さんは芸西村出身。料理人として働き、フランスへ渡り、帰国後はピーマン農家を手伝い――。たい焼き屋を始めることになったきっかけは、畑で交わした何気ないひと言でした。
今回は佐藤さんに、これまでの歩みやたい焼きへのこだわり、芸西村とのつながりについて伺いました。

フランスへ。「なんとかなるかな」で飛び込んだ
たい焼き屋を始めるまで
レストランや居酒屋で働いて洋食・和食を学んだ後、次の修行先をどうしようかなと考えた時に、また同じようなお店に行くより、全然違うところに飛び込んでみようかなと思ったんです。
もともとフランスに興味があって、フランスで働けたらと思ったんですが、就労ビザがなかなか取れなくて。それなら観光ビザで、1か月はパリ、もう1か月はリヨンに滞在して、食べ歩きをしてみようと。
フランス語は大学の第二外国語で勉強していたくらいで、挨拶と数字、自己紹介くらいしかできなかったですけど(笑)「翻訳機があればいけるだろう。なんとかなる」くらいの気持ちで行きました。
ところが、フランスに着いて2週間くらいでコロナ禍になって、ロックダウンしてしまって。
最初はすぐ解除されるだろうと思っていたんですけど、どんどん状況が変わって、このまま帰れなくなったら困るなと。結局、予定を切り上げて日本へ帰ってきました。
日本も飲食店は時短営業などで不安定な時期だったので、義理の兄がやっているピーマン農家を手伝わせてもらうことになりました。
畑の中で、「たい焼き食べたい」
農家を手伝いながらも、やっぱり料理の仕事に戻りたいなという気持ちはずっとあったんです。
そんな時に、義兄と2人でピーマンをちぎりながら、急に「たい焼き食べたいね」っていう話になって(笑)
12月くらいで寒かったんですよ。「じゃあ買いに行こうか」と調べてみたら、僕が学生の頃には高知県内に何店舗もあったたい焼き屋さんが、ほとんどなくなっていて。
「あれ、これってたい焼き屋を始めたら商機があるんじゃない?」と思ったんです。
移動販売なら始めやすいかなと思って、週6日はピーマンの収穫、休みの日曜日にかっぱ市へ行って、テントを張って週1回だけたい焼き屋を始めました。それがcollationのスタートです。

最初は5種類、意外なおかず系テイストも
最初は5種類からスタートしました。あんこ、カスタード、チョコ、キーマカレー、それから「アリゴ」。
アリゴはフランスで知った料理で、マッシュポテトにチーズを練り込んだものです。
僕は洋食と和食はやってきましたけど、甘いものは全然やったことがなかったので、あんこを炊いたり、カスタードを炊いたりするのも、新しい勉強になるかなと思って始めました。
かっぱ市では最初、知り合いの方がたくさん来てくれました。毎週必ず出ていたわけではなかったので、「行ったら会えるかな、今日はおるかな」みたいな感じだったと思います(笑)。
そんな感じで1年くらい続けているうちに、少しずつイベントにも呼んでもらえるようになって。日曜日だけでは足りなくなってきたので、義兄に相談して、たい焼きの営業を週2、3回に増やしました。
せっかく移動販売をするなら、いろいろな所へ行ってみたいと思って、高知市内にも出店するようになりました。

芸西村のクラウドファンディングで、キッチンカーに
テントでの営業は、準備にも撤収にもすごく時間がかかるんです。扱える食材にも制限がありました。
もっといろいろなことをやりたいと思った時に、「キッチンカーだったらできることが増えるな」と思っていました。
ちょうどその頃、芸西村の方から「こういうクラウドファンディングがあるから、やってみませんか」と声をかけてもらったんです。
それでキッチンカーを作るために必要だった300万円を目標金額にクラウドファンディングを始めました。
最初の2週間くらいは全然寄附が集まらなくて、ピーマンのハウスで作業しながら、休憩時間にちょこちょこ確認していました。「大丈夫かな」って(笑)。
でも、それが途中から一気に増えたんです。小さな村で若い人が頑張ろうとしている、というところに共感して、応援してくださった方も多かったんじゃないかなと思います。
たい焼き屋っぽくない、たい焼き屋に
collationという名前の由来は?
フランス語で「おやつ」という意味なんです。
僕、名字が佐藤なんですけど、「たい焼き屋 佐藤」とかにしても面白くないなと思って(笑)
変わったことが好きなんです。それに、いかにもたい焼き屋という名前にしない方が、たい焼き以外のことにも挑戦しやすいかなと思ったんです。
夏だったらかき氷もできますし、たい焼きだけに限らずいろいろやりたいんです。
フランスが好きなのでフランス語で探していたら、「おやつ」という意味のcollationを見つけて、ちょうどいいやんと。それでこの名前にしました。

迷うところから楽しんでもらいたい
メニューもどんどん増えていますね
増えましたね(笑)。
自分の頭の中で「これとこれは合うんじゃないか」と考えたり、いろいろなスイーツのお店を参考にしたりしています。
たい焼きって、あんこやカスタードが入った昔ながらの手頃なおやつ、というイメージがありますよね。そこに白玉をトッピングしてみたり、バターを合わせてみたり。いろいろやっているうちに、どんどん増えてしまって。増えたら増えたで、今度は減らせなくなりました(笑)。
でも今は、その種類の多さもcollationの売りなのかなと思っています。お店の前で「何にしよう」って迷う。その時間も楽しんでもらえたらいいなって。
子どもはチョコ、奥さんは、あんこ&クリームチーズっていう甘じょっぱい感じが好きみたいです。
仕込みは全部自分でやっているので、大変です。個人事業主になったら、自分でスケジュールを組めるから休みたい時に休めると思っていたんですけど、全然そんなことなかったですね(笑)。
ただ、もともと作ることが好きなんです。自分で考えたものを出して、お客さんがどんな反応をしてくれるのか。それを見るのが、モチベーションのひとつにもなっています。
「あんこが苦手だけど、ここのは食べられる」
僕自身、もともとそんなにあんこが得意じゃなかったんです。あんこって「すごく甘い」というイメージがあったので、自分でも食べられる、あっさりしたあんこを作ろうと思いました。
一人1個じゃなくて、2個、3個と食べてもらうなら、くどくない方がいいですし。だからお客さんから「あんこが苦手だけど、ここのは食べられる」って言ってもらえると、すごくうれしいですね。
そのあんこには、芸西村の白玉糖も使っています。たい焼きを始める時に、せっかくだったら地元のものを使いたいと思って。白玉糖は小学生の頃から知っていましたし、実際に食べたこともあって、おいしさも知っていました。
普通のお砂糖とはちょっと違って、深みが出る気がするんですよね。白玉糖だけで作ったこともありますが、それだと少し個性が強くなるので、試作を重ねながら配合を考えて、今の味になりました。
おやつにも、ごはんにも、お酒にも
一番人気は、やっぱりあんこです。あんこに白玉やバターをトッピングしたものも人気ですね。
僕のおすすめはアリゴとかキーマカレーです。たい焼きとしては珍しいので、最初はちょっと手を出しにくいかもしれないんですけど、一度気に入ってくれた方はずっと買ってくださいます。リピーターさんも多いですね。
たい焼き屋を始める時から、老若男女に食べてもらえるお店にしたいと思っていました。子どもならおやつに。ごはん代わりにもなるし、お父さんだったらお酒にも合うものがあったらいい。それで最初から、おかず系のたい焼きを作りました。
季節によっては、地元の野菜を使ったメニューも作っています。
以前のイベントで、芸西村のナス農家さんと味噌を作っている方と一緒に、ナスと味噌を使ったパイ生地のたい焼きを作ったことがあります。僕には「味噌をたい焼きに」という発想がなかったので、3人で意見を出し合いながら作りました。
たい焼きって甘いイメージがあるので、逆にこういうおかず系を面白がってもらえるのもうれしいですね。

たい焼きと一緒に、芸西村のPRも
キッチンカーを作ってからは、「せっかく芸西村のクラウドファンディングで作った車なんだから、芸西村をPRしたい」という気持ちも持つようになりました。
芸西村の中で営業するだけじゃなくて、外へ出て芸西村を知ってもらうのもいいんじゃないかなって。
キッチンカーには芸西村のパンフレットも置いています。たい焼きが焼き上がるのを待っている間に見てくださる方も結構いて、「芸西村ってこういうところなんだ」って。
県外で出店した時にパンフレットを見て、その後、本当に芸西村へ遊びに来てくれたり、「竹灯りの宵に行ったよ」と言ってくれた方もいました。微力ですけど、ちょっとは役に立てているのかなと思います。
芸西村は「ちょうどいい」
佐藤さんにとって、芸西村はどんな場所ですか?
「ちょうどいい」ですね。
高知市内にも30分くらいで行けるし、コンビニもスーパーもある。ちょっと行けば遊べるところもある。何もないと言えば何もないんですけど、不自由じゃない田舎という感じが僕は好きです。
学生時代は関東に住んでいたので、一度外に出たからこそ、余計に村の良さを感じるようになったのかもしれません。喧騒にまみれていないというか、「ちょうどいい時間」が流れているんじゃないかなと思います。
「こんなたい焼き、あるんだ」をつくり続けたい
これからやってみたいことは?
メニューを増やします(笑)。これからも、ずっと挑戦し続けていけたらいいですね。
「こんなたい焼き、あるんだ」って思ってもらえるようなものを、もっと作っていきたいです。
それから、芸西村のクラウドファンディングで作ったキッチンカーなので、もっといろいろな場所へ行って、芸西村をPRできたらと思っています。まだ高知県内でも行けていないところがありますし、県外の大きな催事にも行ってみたい。愛媛や香川には行ったことがあって、今度は岡山にも行く予定です。
少しずつですけど、もっと遠くまで行けたら面白いですね。
取材後記
キッチンカーを出店されている場所でも取材させていただいたのですが、お忙しい中、お一人でテキパキとこなしていらっしゃいました。お客様にお渡しする時の笑顔がとてもステキで印象的でした。
佐藤さんのお話を聞いていると、「面白そう」と思ったことをまずやってみる、その軽やかさがcollationらしさにつながっているように感じました。 次はどんな「こんなのあるんだ」が飛び出すのか、楽しみです