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「お米を蒸す香りが、いつもそばにあった」ふるさとの酒蔵から日本酒の魅力を全国へ。仙頭酒造場 仙頭 美紀さん
芸西村で明治36年(1903年)から酒造りを続けている「仙頭酒造場」。
代表銘柄「土佐しらぎく」をはじめ、日本酒や焼酎、梅酒など、さまざまなお酒を造っています。
今回お話を伺ったのは、代表取締役の仙頭美紀さん。酒蔵のある家に生まれ、幼い頃から酒造りの音や気配に囲まれて育ちました。
日本酒の魅力に目覚めたきっかけや、帰郷してからの新たな挑戦、ご主人とともに大切にしている酒造りへの想い。そして、生まれ育った芸西村への想いを伺いました。

お米を蒸す香りが、子どもの頃の思い出
仙頭酒造場について教えてください
仙頭酒造場は、明治36年から芸西村で酒造りを続けています。今年で123年目になります。現在は、日本酒のほかに米焼酎、栗焼酎、梅酒なども造っています。
日本酒の製造は、今年は9月から始まって、5月いっぱいぐらいまで。9か月ほど続きます。日本酒を造らない夏の時期には、梅酒や栗焼酎を仕込んでいるので、年間を通してお酒造りをしています。


小さい頃から蔵が遊び場のようなもので、酒造りはいつも身近にありました。
冬になると、お米を蒸すいい香りがするんです。タンクからも香りが漂ってきますし、お酒を搾る時にはまた違った香りがする。そういう環境の中で育ってきたので、私にとって酒蔵があるのは当たり前のことでした。
家でも食事をしながら酒造りの話をすることが多くて、仕事のことは自然と耳に入ってきていましたね。
「日本酒って、こんなにおいしいんだ」
家業を継ごうと思ったのは、いつ頃だったのでしょうか?
実は、最初から継ごうと思っていたわけではないんです。
大学は大阪に進学して、就職活動も大阪でしていました。父からも「後を継いでほしい」と言われたことはなかったので、自分が継がなければという意識は特になかったんです。
就職活動では業種を絞らず、いろいろな会社を見て回っていたんですが、そのうちに実家の仕事にも興味が湧いてきたんです。ちょうど就職氷河期で、なかなか就職が決まらなかったこともあって、一度実家に帰ろうかなと考えていました。
そんな時、父から「東京の酒屋さんで勉強してみるか」と声をかけられたんです。東京にも行ってみたかったので、行くことにしました。
東京では地酒専門店の「はせがわ酒店」さんで2年間お世話になりました。仕入れや経理、配達など、いろいろな仕事を経験させていただきました。日本酒だけでなく、焼酎やワインなど、さまざまなお酒を扱っていたので、本当に勉強になりましたね。
そして、そこで初めて吟醸酒を飲んだんです。
大学時代は日本酒を飲む機会がほとんどなくて、飲むとしてもチューハイのような軽いお酒が中心でした。日本酒には、どちらかというと「酔うために飲むお酒」という印象があったんです。
でも、初めて吟醸酒を飲んで、びっくりしました。とにかく香りがいいんです。フルーティーで、口に含むと味わいがふわっと広がって、お米の旨味も感じられる。
「日本酒って、こんなにおいしいんだ!」と思いました。
それからも全国のいろいろな日本酒を試飲する機会があり、お酒によって香りも味わいも全然違うことを知りました。日本酒をじっくり味わうという感覚がなかったのですごく新鮮でしたね。
そこで初めて、「いつか実家に帰って、酒造りに携わりたい」と思うようになったんです。
東京での経験を、ふるさとの蔵へ
東京の酒屋さんでは、お酒の販売についていろいろ学ばせていただきました。でも、実家に帰って仕事をするなら酒造りのことも勉強しておきたいと思ったんです。
そこで、東京にあった醸造試験場で酒造りを学びました。お酒についての授業を受けたり、利き酒をして香りの違いを学んだり、小さな仕込みで実際にお酒を造ってみたり。そうした経験をしてから芸西村に帰ってきました。
こちらに戻ってきてからは、商品づくり全般を見直したり、ラベルのデザインを変えたり。もっと多くの方に知っていただくために、商品の案内を作ったり全国のお酒のイベントに出向いたりしました。
東京でいろいろなお酒を見てきたことで、「うちのお酒も、もっとこうしたらいいんじゃないかな」と思うことが増えていたんです。

漢字の「白菊」から、ひらがなの「しらぎく」へ
以前は今とは違って「白菊」の文字を使った、昔ながらのラベルでした。
東京でいろんなお酒を見ているうちに、もう少し親しみやすいデザインにしたら、今まで日本酒を飲んでいなかった方にも手に取っていただけるんじゃないかと思うようになったんです。それで、ひらがなの「しらぎく」に変えました。文字も書家の方に書いていただきました。
―――ひらがなになると、やわらかい印象になりますね
そうですね。日本酒にあまり馴染みのない若い方にも、興味を持っていただきたいという想いがありました。ラベルを見て、ぱっと手に取ってくださる方が以前より増えたように感じています。
ただ見た目を変えるだけではなく、お酒の味わいや雰囲気がラベルからも伝わるようにしたいと思いデザインを考えました。今の「土佐しらぎく」のラベルに変えたのは、もう25年ぐらい前になりますね。
お米の個性を大切に、一つひとつ丁寧に
酒造りで大切にされていることは?
今は高知県産の酒米を中心に、全国のいろいろなお米を使っています。全部で10種類近くになるでしょうか。お米によって特徴が全然違うので、それぞれの良さを引き出せるようなお酒造りを大切にしています。
同じお米を使って同じように造ったつもりでも、まったく同じお酒にはならないんです。気温や湿度など、いろいろな条件が影響しますから。
―――ここで、製造責任者のご主人・竜太さんにも、お話を伺いました。酒造りで一番緊張するのは、どんな時でしょうか?
竜太さん
難しいですね。酒造りというのは、細かいことの積み重ねなんです。どこか一つだけが特別に大事というよりも、一つひとつの作業を丁寧に積み重ねていくことが大切になってきます。
あえて挙げるとすれば、仕込みが始まるこの時期でしょうか。毎年、お米の出来が違うんですよ。だから、まずは今年のお米がどういう状態なのかをつかまないといけないんです。
専門機関によるお米の分析結果も出るんですけど、それがわかるのは11月末から12月初めぐらいなんです。それを待ってから仕込みを始めるわけにはいかないので、最初は自分たちの経験や感覚で、お米の状態を見極めながら進めていきます。後から分析結果が出てきたら、自分たちの感覚と照らし合わせて確認していく。
そうしながら、その年のお酒造りをどんな方向に持っていくかを決めていくんです。毎年同じことをしているようで、毎年違う。そこが難しいところでもありますね。

季節のお料理と一緒に、楽しんでほしい
―――こちらへ戻られてから、新しく生まれたお酒もあるのでしょうか?
はい、いろいろあります。
例えば、季節ごとの限定酒を出すようになったのも、その一つです。その季節のお料理と一緒に楽しんでいただけるようなお酒を、という想いから始めました。今の時期(取材当時・9月)なら、秋限定の「ひやおろし」があります。やわらかな味わいで、秋の味覚ともよく合うんですよ。
サンマの塩焼きのようなお魚料理はもちろん、和食だけに限らず、いろいろなお料理と合わせて楽しんでいただけたらと思っています。
日本酒を普段から飲まれる方だけでなく、これまであまり飲んだことがなかった方にも、その魅力を知っていただきたいと思っています。お酒の味わいも、楽しみ方も、本当に幅広いですから。
ふるさと納税を通じて、全国の方へ
芸西村からお声がけいただいたことがきっかけで、ふるさと納税の返礼品としてお届けするようになりました。
もともと全国のお酒のイベントや飲食店さんが開催する「土佐しらぎくの会」などで、お客様とお会いする機会はあったんです。ふるさと納税も、芸西村のお酒を全国の方に知っていただける機会の一つになっていると思います。
お申し込みのお名前を見て、「あ、この方は以前も申し込んでくださった方だな」と気づくこともあります。リピーターの方がいらっしゃるのは、やっぱりうれしいですね。
芸西村の返礼品をきっかけに「土佐しらぎく」を知っていただいて、気に入って、また選んでいただける。そんなふうにつながっていくことは、ありがたいことだと思っています。
芸西村で長く造り続けてきたお酒ですから、いろいろな方に楽しんでいただけたらうれしいです。

新しいことに挑戦するのは、父譲り
海洋深層水を使ったお酒もあるとか
はい。「深海」というお酒です。海洋深層水を使ったお酒で、すっきりとしたキレのある味わいが特徴です。
これは、父が取り組んだ商品なんです。以前、高知県の工業技術センターから、海洋深層水を使ってお酒を造ってみませんか、というお話をいただいたそうなんです。当時は、食品に海洋深層水を使うこと自体が珍しかったので、失敗するかもしれないし、普通ならなかなか挑戦しないですよね。
でも、父は新しいことをやってみたいというタイプだったので、「やってみよう」と。そうしたら、すごくいいお酒ができたんです。新聞にも取り上げていただいて、当時は2日で完売したそうです。
私も、これまで日本酒を飲んでこなかった方に興味を持っていただけるように、新しい商品づくりに取り組んでいきたいと思っています。
娘の名前をつけた、特別なお酒
―――「美潮」というお酒、素敵な名前ですね
はい。実は「美潮」は、娘の名前なんです。夫がつけた名前で、ちょうどその頃、新しいお酒を発売することになったので、同じ名前をつけました。
「美潮」は、これまでの「土佐しらぎく」とは少し違ったタイプのお酒なんですよ。白ワインのような感覚で、ワイングラスでも楽しんでいただけるようなお酒です。フルーティーな香りがあって、上品な甘さも感じられます。お米の旨味や酸味など、いろいろな味わいが重なっていて、少しジューシーな印象のお酒ですね。
日本酒というと、辛口や甘口というイメージが強いかもしれませんが、もっといろいろな味わいがあるんです。ワインがお好きな方にも、ぜひ楽しんでいただきたいですね。
海の音を聞きながら育った、芸西村の暮らし
芸西村は、やっぱり自然がいっぱいあるところが好きですね。
この蔵は海の近くにあるので耳を澄ますと波の音が聞こえてくるんです。天気によっても聞こえ方が違うんですよ。
小さい頃から、そういう環境の中で育ってきました。海までも歩いて行けるので、子どもの頃から散歩をしたり、海を眺めながら考え事をしたりしていました。
今は、子供と一緒に朝のウォーキングに出かけたり、ジョギングをしたり。小さい頃には、お弁当を作って海へ行って、一緒にご飯を食べたりもしました。
特別なことではないんですけど、そういう自然がすぐそばにある暮らしが、芸西村のいいところだと思います。

もっと多くの人に、日本酒のおいしさを伝えたい
今後、挑戦してみたいことは?
お米それぞれの特徴を大切にして、その良さを引き出せるようなお酒造りを続けていきたいです。
今まで日本酒を飲んだことがない方にも、もっともっと日本酒の魅力を伝えていきたいですね。
最近は、高知県で開発された「CEL-24」という酵母を使ったお酒や、アルコール度数を少し抑えた飲みやすいお酒なども造っています。
日本酒は、使うお米や酵母によって本当にいろいろな味わいが生まれるんです。酵母によっては、リンゴやバナナのような香りが出ることもあるんですよ。お米から造っているのに、そんなフルーティーな香りがするなんて、不思議ですよね。
―――海外にも「土佐しらぎく」が届けられているそうですね。
そうなんです。最近は少しずつ輸出も増えていて、アメリカや香港、韓国、台湾、タイなどにもお届けしています。
海外では和食が人気ですし、日本酒にも興味を持ってくださる方が増えています。国や地域によって好まれる味わいも違うので、面白いですね。これからも新しいことに挑戦しながら、もっと多くの方に日本酒のおいしさを知っていただけたらと思っています。
【取材後記】
酒蔵の中に漂うお米の香りが、子どもの頃の思い出。そんなお話が、とても印象的でした。
インタビューの最後には、店舗や酒蔵の中も案内していただきました。長い年月を重ねてきた建物や、そこかしこに感じられる歴史の面影。実際に蔵を歩いてみることで、123年にわたり受け継がれてきた酒造りの歴史と、その奥深さを改めて感じました。
波の音が聞こえる芸西村の酒蔵から、これからもたくさんの人に日本酒のおいしさが届いていくのが楽しみです。